籐椅子に座るでもなく、まるで猫のように丸くなっている彼女を見つけて目を丸くする。
「なんでこないなとこで寝とるん」
「…ん」
夢でも見ているのか、微かに瞼を震わせてはいるが、開かれた唇からは心地よい寝息が絶えず洩れている。
「なんや、変な気分になりそうやわ」
困った風なことを言いながらも、緩んでしまう口元は隠せない。
「ほんま…困った子やねぇ」
膝をつき、眠る彼女の頭をそっと撫でてやれば、うれしそうに口元が綻ぶ。
「そないな顔見せると、襲ってまうよ?」
「ん〜…」
僅かに洩れた声が、イエスなのか、ノーなのか。
それは起きた時に確認すればいいとでもいうように、微かに開いた唇に誘われるよう、そっと顔を近づけ口づけた。
「ん、ふ…」
呼吸がままならなくなり、些か苦しくなって来たのか、眉間に皺が寄り、無意識に手が目の前のものを押し返そうとする。
けれど、土岐はそれを許さず、更に深く口づけた。
急激に心地よい眠りの縁から引き上げられ、ぱちりと開いた彼女の瞳の奥に、くすぶる熱を見つけた瞬間…土岐はようやく唇を離す。
「っぁ…?」
「おはようさん、」
「え、え?」
「よう寝とったね」
目の前で身体を丸めたまま、けれど、先ほどと違い何かを抑えるよう身体を抱えている姿を見て、にっこり艶やかに微笑んでみせる。
「どないしたん、寒いん?」
「ち、違うけど」
「なんや、寒いんやったら温めたろう思うたのに」
「…っ」
温める、の意味を、今の彼女がどのように取るかなど、手に取るようにわかる。
わかっていて、誘うのだ。
そっと手を伸ばし、見えない彼女の理性の糸に指を絡める。
「…キスの続き、しとうない?」
「ほ、蓬生」
「な、…」
今にも泣き出してしまいそうに揺れる瞳に引き寄せられるよう、顔を近づけ、とどめとばかりに甘く囁く。
「しよか…」
耳にその声が届いた瞬間、蓬生の手の中にあった何かが、ぷつりと音を立てて切れた。
蓬生の、ぽつりと囁くひとことが、私的に魅惑の声です。
2010/06/20